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怪鳥『ハシビロコウ』、動かない鳥の魅力

数年前までは知る人ぞ知る謎の鳥だったハシビロコウ。近年ではインターネットだけでなく、TVメディアの露出も増えて認知度は格段に上がった。正面から見た迫力に反して、横から見ると可愛い見た目をしていたりとギャップが激しいことが魅力の一つとしてメディアに大きく取り上げられました。今回は動物園の人気者であるハシビロコウをご紹介します。

ハシビロコウはどんな鳥?

名前の由来と分類

ハシビロコウの学名はBalaeniceps rex(クジラ頭の王様)と言いますが、日本では「大きなクチバシ」のコウノトリと言う意味を込めハシビロコウ(嘴広鸛)と言われています。

英語では「靴のようなクチバシ」と言う意味でShoebillと呼ばれています。

近年の研究によるDNA分析でハシビロコウはコウノトリの仲間ではなく、ペリカンに近いということが分かりましたが、どちらにも属さないペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類される鳥類となりました。

ハシビロコウの見た目

体長は140cm近くあり、翼を広げると横に260cmほどの大型鳥類で、オスの体重は平均5.6kgと見た目に反して軽めとなっています。

寿命は平均35年ほどと言われていますが、野生と飼育下では大きく異なります。

最大の特徴は大きなクチバシですが、後頭部にある冠羽も個体によってバラツキがあって寝癖のように見えて愛嬌を感じさせてくれます。

ハシビロコウの生息地

生息地はアフリカ大陸の中部から東部の湿地帯ですが、世界的に有名なのはウガンダ共和国にあるヴィクトリア湖に接したマバンバ湿地帯です。

この湿地帯はハシビロコウにとって餌が豊富で、寝床に使うパピルスと言われる植物などが多数群生しているため、野生のハシビロコウとの遭遇率が高い人気スポットとなっています。

ハシビロコウの天敵

ハシビロコウの生息域である湿地帯には、ワニなどの肉食の大型爬虫類もおらず天敵と呼べる相手はいません。

ただし、生まれて間もない雛のときに関してはマバンバ湿地帯に生息する猛禽類であるヤシハゲワシ、哺乳類であるカワウソなどが天敵となりえます。

マバンバ湿地帯には動物園やコレクターに売りつけるために密猟者が現れることも少なくないと保護協会が伝えているので、一番の天敵は人間ということになるのでしょう。

ハシビロコウが動かない理由は二つ

ハシビロコウは夜行性

ハシビロコウが動かない理由の一つは夜行性であることです。

昼間は草の間などで休憩していることがほとんどですが、野生と飼育下にいるハシビロコウでは生活リズムに違いがあるようで、動物園にいるハシビロコウは夜に寝ることが多いようです。

ハシビロコウは狩りのために動かない

ハシビロコウが動かないもう一つの理由が、獲物を仕留めるための戦術が水の上で動かないことだからです。

水上で微動だにせず立つ事により、獲物である魚に気配を感じさせないようにしているのです。

メインの獲物になる魚はハイギョと言われる肺呼吸する特殊な魚で、数時間に一度呼吸のため水面まで上がってきます。

ハシビロコウは獲物がくるまで察知されないよう待ち構える必要があるので、動かない時間が必然的に多くなり、時には5時間以上待つこともあります。

ハイギョ以外の魚や蛙なども普通に食べますが、素早くないハシビロコウはこのスタイルの狩りをするしかないので、何を狙おうと結局は動かない時間が多くなるわけです。

ハシビロコウは鳴くよりクラッタリングをする

ハシビロコウは鳴管が退化しているため、鳴くことはあまりありません。

その代わりに「クラッタリング」と言われる、クチバシを使いカタカタと音を出す行為を求愛や威嚇などのコミュニケーションを行います。

運が良ければ動物園で飼育員さんへの挨拶や意思表示にクラッタリングして感情を表現するハシビロコウを見ることができるかもしれません。

ハシビロコウはお辞儀で挨拶する

実は一部の鳥類の特性で、コミュニケーションの取り方の一つとしてお辞儀をすることがあります。

大抵は求愛行動だったりするのですが、ハシビロコウの場合は求愛の他に仲間への挨拶にもお辞儀をします。

個体にもよりますが、動物園で飼育されているハシビロコウは人にもお辞儀することがあるようです。

ハシビロコウの子育ての厳しい現実


BBC Earth
がYoutubeにてアップロードしているThe Dark Side of Shoebill Chicks | Africa | BBC Earthを見てみるとハシビロコウの子育ての様子を確認することができました。

生後3週間、生まれが3日違いの雛鳥2羽が母親からの餌を争う様子や、若い雛鳥を先に生まれた雛が虐めるなどの自然の残酷さを映しており、熾烈な生存競争を感じさせるものになっています。

母親も水を与える際に先に生まれたクチバシが大きく、ガッチリとした強い雛を優先して世話をしているようです。

野生動物のため、自然界で生き延びる可能性が高い個体を育てるというのは当然なのかもしれませんが、普段カワイイと言われている動物の現実の一面を見るのはなかなか衝撃的です。

The Dark Side of Shoebill Chicks | Africa | BBC Earth

ハシビロコウが人気の理由はギャップに有り

強面だけど間の抜けた顔がカワイイ

正面から見ると険しい顔にも見えるハシビロコウですが、違う角度から見るとクチバシの合わさる部分が人の笑顔のような曲線を描いて笑っているように見えます。

獲物を狙っていないときや油断しているときは、目も力が入っていなくて口が開いていたりと間の抜けた顔でギャップ萌えです。

出典:Flickr/marigold27

起きてる時と寝てる時のギャップがカワイイ

日中は水上で迫力のある顔で棒立ちのハシビロコウですが、仕事を終えた後や昼間はパピルスなどの草の間で睡眠をとります。

仕事中と違って眠りについたハシビロコウはどことなく水面に浮かぶカモや香箱座りする猫のようなシルエットで可愛らしいですね。

出典:Flickr/marigold27

実は意外と動く

インターネット上では全く動かないと言う話が有名ですが、その日の気分にもよりますが数分見るだけでも色々な仕草が見れます。

クラッタリングであったり翼を広げたりと仕草は色々。

上野動物園の過去ツイートでも意外と動きますアピールをしているぐらいですから。

ハシビロコウの人気は予想外

1981年に伊豆シャボテン動物公園にて日本で初めてハシビロコウが公開されたときには、ハシビロコウの認知度もなく魅力が認知されていませんでした。

それから数年の歳月がたち、数か所の動物園でもハシビロコウが公開されていきましたが、人々の関心をもっとも集めたのは2002年に上野動物公園に来てからになります。

そこで多くの人に認知され、上野動物園ではパンダに次ぐ人気者になるほど注目を浴びるようになりました。

今までの動物園の常識では、人を退屈にさせないキリンやゾウなどのインパクトがあってよく動く哺乳類や、ライオンなどの有名な動物が人気物になるのが当たり前でしたが、認知度もなく鳥類であったハシビロコウはその常識を覆す異端児というわけです。

出典:Flickr/marigold27

世界最高齢のハシビロコウは日本にいた

静岡県にある伊豆シャボテン動物公園にて飼育されていたハシビロコウのビル。

1971年スーダンのハルツーム動物園より来日し、1981年4月にメスの「シュー」とオスの「ビル」はつがいで伊豆シャボテン動物公園にやってきました。

シューに先立たれた後も園内のバードパラダイスエリアにて、のんびりと愛されながら長いこと暮らしていましたが、2020年8月6日に老衰が理由でこの世から旅立ちました。

コウノトリ科の鳥の平均寿命が35歳と言われるなかで、ビルは推定年齢50歳以上も生きた記録的な長寿で、人間の年齢に換算すると100歳以上生きたことになります。

シャボテン公園

オスと言われていたけど実はメスだったビル

ビルはオスのハシビロコウとして来日しましたが、死後に行われた解剖の結果でメスであることが判明しました。

何故こんなことが起きたのかは、ハシビロコウの性別を見極める方法が、オスの方がメスよりも平均して大きいという以外に外見上判断できる方法がないことにありました。

PCR法などの遺伝子検査を行えば判別は可能でしたが、高齢のビルを捕獲して採血を行うなどの多大な負担をかけることになってしまうので、園の配慮により行われていませんでした。

このような園側の素晴らしい配慮が色々な場面であったからこそ、ビルは長生きできたのでしょう。

参考:ハシビロコウ「ビル」はメスだった。|シャボテン公園

ハシビロコウに会える動物園

日本動物園水族館協会のHPによると、ハシビロコウを飼育している動物園は下記の5園になります。

記事掲載時の情報のため、行く前には各動物園のHPで確認するようお願いいたします。

静岡県 伊豆シャボテン公園につきましては、バードパラダイス内にビルのための献花台があります。